ゲスじゃない悲しい恋物語「衣通姫伝説の茅渟宮跡から」
2018/10/10
大阪湾の古い呼び方に「茅渟(ちぬ)の海」というものがあります。古事記中巻の神武天皇即位前期に記されているもので、和泉国(泉州地域)の国名を「茅渟」と呼んでいました。
神武天皇とその兄五瀬命が大和の地へ東征した時代に河内国の長髄彦と戦い、兄五瀬命は現在の日下山中で矢に打たれ負傷したという。その傷を受けた手の血を洗われたので、大阪湾は「血沼(ちぬ)」の海と呼ばれたというのが古事記が伝える由来のようです。
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神武天皇は敵じゃなかったのか
古事記に「茅渟」の語源を求めると、血なまぐさいモノになりそうですが、万葉集には恋歌に詠まれていてロマンチックな気分に駆り立ててくれます。
妹(いも)がため貝(かひ)を拾(ひり)ふと千沼(ちぬ)の海に
濡れにし袖は干せど乾かず
(巻七~一一四五)
ザックリ言うと「好きやんのために貝殻集めにかかり切りになってもうて、気ぃついたら服の袖がびちょびちょになってもうてた」みたいな。なぜ、コテコテの大阪弁かは謎です。失礼しました。
神武天皇聖蹟顕彰碑の不思議
神武天皇東征の聖蹟を顕彰するために建てられた顕彰碑は、大分・福岡・広島・岡山・大阪・和歌山・奈良の各府県に点在します。しかし、奈良県に多く点在するのは理解に苦しみます。大和にとって神武天皇は侵略者であり、長髄彦は生駒の英雄だったはず。
茅渟の海辺は松並木
千沼の海の浜辺の小松根深めて
我恋ひ渡る人の児故に
(巻十一~二四八六)
口直しにロマンチックな恋歌をもう一首お届けします。解釈は各自でなされてください。大阪湾の松並木はほとんどが消失して、昔日を偲ぶ風景はほとんど残っていません。お菊山への山稜から見る大阪湾には、関西国際空港や連絡橋などの建築物が浮かび、ロマンチックな題材には程遠いかもしれません。
茅渟宮跡に伝わる悲しい恋の伝説
日本書紀によると允恭天皇は皇后の忍坂大中姫(おさかのおおなかつ)が出産で苦しんでいるときに、皇后の妹であった弟姫(おとひめ)と一夜を過ごしたという恋の物語が載っています。
弟姫こそが衣通(そとおり)姫と呼ばれた絶世の美女で、「美しい肌の色が衣を通して照り輝くほどの美貌の女性」と伝わっています。
これ、どこかで最近聞いたような話ですね。ヨメが出産中に不倫して失職したイケメン議員さんの話を思い出させます。天皇なら問題ないのでしょうか。そうでもないようですよ。
日本書紀の歌謡から
我が夫子が来べき宵なりささがねの
蜘蛛の行ひ今宵著しも
もう一首どうぞ。
ささらがた錦の紐を解き放(さ)けて
数多は寝ずにただ一夜のみ
「ささらがた」というのがよくわかりませんが、細かい文様のようで手の込んだ高価な着物ということでしょう。そして、「錦の腰ひもを解いて一夜でよいから一緒に過ごしましょう」なんて艶めかしい歌を受け取っていたら、皇后に見つかって大目玉喰らうのはアタリマエでしょう。
衣通姫は賢明な女性で、「これはヤバイ」と思ったのか、姉の皇后に遠慮して都を去り遠く茅渟宮に移り住んだと云います。いつの世も損をするのは女性なんですね。ベッキーさんも早く復帰したらよいのに。イッテQが面白くなくなりました。
允恭天皇の歌が残されている(コレは立派な不倫の証拠ですね。歌→LINEに変わっただけ)
とこしへに君も逢えやもいさな取り
海の浜藻の寄る時々を
中村児童公園として整地されている衣通姫之墓のある広場の隅に、茅渟宮跡と記した木柱と石碑が立っています。毎年春の彼岸には、衣通姫を偲んで墓前祭が催されているそうですが、もう間もなくのことですね。
公園には桜の木が一本植わっていますが、衣通姫を桜をの美しさにたとえた允恭天皇は、どうしてもっと早く愛さなかったのだろうと、衣通姫への偽らざる気持ちを吐露しています。360°パノラマ写真で振り返ると茅渟の海から運ばれてきた潮風が吹き抜けていくような感じがするかもしれません。
今回歩いたルート
道中にある意賀美神社をストリートビューで見る
では、また。
早く戻っておいで~。今も昔も同じだよ~。
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